▼週末は3冊ほど本を読んだが『脱「ひとり勝ち」文明論』が久しぶりにドキドキワクワクする本だった。 最高時速370キロ、ポルシェ並の加速力を持つエリーカの存在は知っていたし、一度六本木ヒルズに展示されているのを見たこともあったが、まさかこれまでとは。 この車は車好き、実験好きの教授が学生と一緒にちょっとマニアックなゼミでつくった完全なるコンセプトカーなのかと思いきや、それは完全なる誤解で、著者は現在の環境問題やそれを解決する方法を十分に理解した上で、エリーカという現在のガソリン車に「加速感」「乗り心地」「スペース」どれを取っても圧勝できるスーパーマシンを通じて太陽電池の優位性を提示する。
▼僕も車が好きでCAR GRAPHICなどの車雑誌を今でも眺めたりするのだが、そこには水素カーのチャレンジや更に進化するハイブリッドエンジンなどがよく取り上げられているが、これはやはり車雑誌が自動車産業という文脈の中で語られているからだろう。 もっと広い視野で見ると世界中のどこでも使える「公平性」、未来にわたって使うことができる「持続性」、世界のエネルギーを全てまかなえる「最大効果量」、資源が無限にある「資源制約」といった点において太陽電池は圧倒的に優位であり、これは自動車分野や水素エネルギーに限らず、バイオや風力、水力エネルギーなどと比較しても揺るぎない事実のようだ。 既存の自動車メーカーから答えが出てこない理由は他にもある。新エネルギー車をつくるときに従来のボディ・デザインをそのまま使うことも一例だ。電気自動車ならすべての機能を車体の下に埋め込むことが可能で電車のような広い車内空間を生み出せるはずだが、ガソリン車のボディを使ったままではその特性は活かされない。 それにエンジンを中央に、そこからシャフトでパワーを伝えるという方式ではエネルギーロスが生じてしまうので現在の太陽電池のパワーでは不足し実現可能性は低いと言う結論になりがちだが、車輪を8つにして車輪の中にモーターを埋め込んでしまえばロスが生じることもなく効率的な運用ができる。
▼更に驚きなのが、現在の太陽電池での発電コストは約24円であり、これは火力発電の約4倍だが、現在の日本の総発電量に対する太陽発電の比率はまだ0.01%に過ぎない。この現状を「生産量が2倍になると価格は1/2になる」という経済の学習曲線にあてはめると、太陽発電が現在の100倍に増えれば太陽電池による発電コストは現在の火力発電と同等かそれ以下になり、かつCO2排出量はゼロになる。現在のCO2排出で最大のものは火力発電だから、そのインパクトは凄まじい。それに100倍の発電量というのも、現在が0.01%というごくごく僅かなのだから、達成可能性は十分にある気がしてくる。 そしてここら辺の技術をすべてひっくるめて日本が非常に優位なポジションにあるというのも、この本がドキドキワクワクさせてくれる大きな要因だ。 エネルギー産業と自動車産業は世界で最も大きな2つの産業、ここで存在感を示すことができればなかなかスゴいのではなかろうか。 というわけでとてもおすすめの本! ちなみにこの本は僕もお世話になりそうなミシマ社。